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『ザ・カーマン』磨き抜かれたダンサーたちの肉体が織りなす情熱と運命の物語

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男性ダンサーを主役にした衝撃的な『白鳥の湖』の振り付けで知られるマシュー・ボーンが、オペラ『カルメン』の音楽をベースに創作した、ホットなダンスで語られる情熱と運命の物語。音楽は誰もが一度は聞いたことのあるビゼー作曲のオペラ『カルメン』を後にバレエ用に編曲されたものを、更にアレンジして使われているが、ストーリーは全くの別物で、1946年と81年に映画化されたジェームズ・ケインの小説「郵便配達は二度ベルを鳴らす」が元になっている。

『ザ・カーマン』コラム

Photo/Johan Persson

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1960年代アメリカ中西部のさびれた町に、ルカという流れ者の男がやって来る。ルカはその町のダイナーに併設された自動車整備工場で働き始めるが、彼の圧倒的でセクシーな存在感は、周囲の誰もをあるいは魅了し、あるいは反発させずにはおかない。ダイナーのオーナーの妻ラナと、ラナの妹リタと淡い思いを寄せあっている純情なアンジェロも、いつしかルカの虜となってしまう。そして寝苦しい暑い夜に、悲劇は起こる。

『カルメン』とのストーリー的な共通点は、一人の魅力的なキャラクターの傍若無人な振舞いが周囲の人々を翻弄し、悲劇的な運命に導いていくこと。ダイナーのオーナーの妻の名は、46年版の映画『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の主役ラナ・ターナーにちなんでいる。ラナ・ターナーと言えば、当時の輝けるハリウッド映画の、代表的なファム・ファタル(運命の女、悪女)。『ザ・カーマン』では、『カルメン』の女主人公に当たる周囲を翻弄するキャラクターは「流れ者」の男の方だが、「ラナ」もまた悲劇を呼び起こす運命を背負っていることは、その名からも明らかなのだ。

だが、ストーリーよりも重要なのは、ダンスそのもの。ダンスには、言葉がない。音楽はあるが、歌詞はない。演出家はセットや衣装、照明、そしてダンスによって観客に語りかける。さびれた町の若者たちのいらだちや若いエネルギー。純情なカップルの淡い思い、もどかしさ。ダイナーのオーナーの無神経さや俗物さ。そして、ルカとラナ、彼らを取りまく全ての人々の情熱、渇望。それら全てを、磨き抜かれたダンサーたちの1つ1つの手足の動き、体の角度、表情が、観客の心を巻き込んで、伝えてくる。

『ザ・カーマン』コラム_2

Photo/Chris Mann

優しいリタに惹かれながらもルカに夢中になってしまう純情なアンジェロを演じるのは、『白鳥の湖』で王子を演じたドミニク・ノース。童顔な王子様顔なので正にハマリ役だが、『白鳥の湖』の時と同様、純な心の憧れや苦悩、リタとの踊りでは優しさや喜びを、更には怒りと激しさをも、その繊細かつのびやかな踊りで伝えてくれる。

強烈な存在感の流れ者ルカを演じるのはクリス・トレンフィールド。彼もシネマ版では違うがステージの『白鳥の湖』ではザ・スワン役で出演している。『白鳥の湖』においてザ・スワンは王子の自由への渇望の象徴的な役柄なので、『ザ・カーマン』のルカと共通する点は多いが、最たる違いはルカが「人間」である点だろう。ルカは現実にもいる、たくさんの人々の中にいても自然に目立ってしまうカリスマ性のあるタイプで、男でも女でも落としたいと思えば誰でも落としてしまうような魅力とエネルギーの持ち主だが、人間ではない「ザ・スワン」とは違って、良心や罪悪感、人としての苦悩も持ち合わせている。とにかく踊りで魅了したければ「ザ・スワン」役、人間的な深みを見せたければルカ役。この2つの役を踊るというのは、男性ダンサーにとってダンサー冥利に尽きるのではないだろうか。

そして、「流れ者」ルカと情熱的な恋に落ちるラナ役は、この役で英国ナショナル・ダンス賞を受賞したジジ・ストラレン。しなやかでセクシー、文句なく美しい踊りで、俗物な夫と結婚している不満、魅力的な男に惹かれる心、生きることへの情熱を余すところなく魅せる。

『ザ・カーマン』コラム_3

またマシュー・ボーンは、主役級以外の全てのダンサーたちとも、それぞれのキャラクターやストーリーを話し合うという。だから、登場する全てのダンサーが個々に輝きを放ち、あらゆるシーンを盛り上げているのだ。
『ザ・カーマン』にしても『白鳥の湖』にしても、演出家ボーンの凄さは、原作とは全く違うストーリーを語りながら、音楽と踊りが少しの違和感もなく調和していること。そして彼の語りたいストーリーをまっすぐに観客の心に届けることだ。

それでも、繰り返すがダンスにおいて重要なのは、ストーリーよりもダンスそのもの。それぞれの個性あふれるダンサーたちの熱い情熱のダンスに、日常や理屈を忘れて心を奪われて欲しい。

マシュー・ボーン『ザ・カーマン』は、2016年6月25日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開。

さらに詳しい情報はコチラ!
マシュー・ボーン『ザ・カーマン』公式サイト

『ザ・カーマン』(C)Illuminations and New Adventures Limited (2015)

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