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【エンタステージ2015総まとめ】2015年のストレートプレイは!?

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エンタステージアワード2015

2015年のストレートプレイは、散りばめられた個性

2015年の演劇界は、まさに粒ぞろいだった。「コレしかない!」と大きく突出した作品がないのは、どの舞台もそれぞれ個性的で、比べるのが難しいからだ。

演劇界の大きな収穫としては、アイドルが女優へと羽ばたく瞬間を何度も目におさめられたことだと思う。『幕が上がる』のももいろクローバーZ(5月・パルコ劇場)や『AZUMI 幕末編』の川栄李奈(9月・新国立劇場 中劇場)は、アイドルではなく一人の人間として、舞台の中心で役の人生を背負う姿を堂々と見せた。何万人ものファンの前に自分の足で立ってきた彼女たちには、迫力と言おうか、人を惹きつける魅力がある。

演出の妙が冴え渡ったのは、マームとジプシー『cocoon 憧れも、初戀も、爆撃も、死も。』(6月・東京芸術劇場 シアターイースト)、『かがみのかなたはたなかのなかに』(7月・新国立劇場 小劇場)、柿喰う客『天邪鬼』(9月・本多劇場)だろう。松たか子主演の『かがみのかなたはたなかのなかに』はダンスの要素も多く、二人のダンサーが鏡のように動く様は、小さな子供から大人まで楽しめる作品となっていた。動きの洗練されたダンサーが、演劇の世界を広げる可能性を感じさせた。

また、現代から歌舞伎にアプローチをする木ノ下歌舞伎の『三人吉三』(6月・東京芸術劇場 シアターウエスト)も、今年大きな話題を集めた。歌舞伎の演目を、劇場で休憩ありの5時間で演じる。江戸時代の娯楽だったという歌舞伎が現代に甦るとこうなるのかも・・・とも思えた。

また、文学座の『明治の棺』(6月・あうるすぽっと)も2015年を象徴する作品だと言える。題材こそ明治の鉱毒事件を扱っているが、その演出は『モンテクリスト伯』(2004年)などで演劇界をけん引してきた高瀬氏の遺作となった。主演の石田圭祐は本作で2015年読売演劇大賞上半期の男優賞にノミネートされている。

ほかにも、栗山民也演出の『アドルフに告ぐ』(6月・KAAT神奈川芸術劇場 ホール)や、1年半ぶりの再演で大人のコメディを見せたラッパ屋『ポンコツ大学探検部』(6月・紀伊國屋ホール)など、安定したクオリティで高い評価を受けた作品も数多くあった。

2015年ストレートプレイベスト作品・男優・女優・演出家は!?

それぞれ違った個性豊かな作品が並んだからこそ、たった一作を選ぶのは難しいが・・・その中で、2015年を象徴するストレートプレイの作品賞を選んでみた。

●作品賞
プルートゥ PLUTO』(1月・Bunkamuraシアターコクーン)

エンタステージアワード2015ストレートプレイコラム作品賞.jpg
プルートゥ イラスト(c)浦沢直樹・スタジオ ナッツ 長崎尚志 手塚プロダクション / 小学館

手塚治虫の「鉄腕アトム」を原案とした漫画「PLUTO」の舞台化で、主演を森山未来が務め、演出はベルギー出身のシディ・ラルビ・シェルカウイが手がけた。
まず、この作品をストレートプレイと言っていいのか、正直迷った。ダンスのような身体的表現や、映像を駆使した表現が多く、原作が浦沢直樹の漫画ということもあり、見方によっては近年流行りの2.5次元演劇に近い。舞台上には何度も実際の漫画イラストが用いられ、漫画のキャラクターと役者がシンクロしていった。
しかし、最近の舞台ではプロジェクションマッピングなどを使用したりと、ストレートプレイの表現方法が多様化してきた。そんな現代だからこそ、これからの舞台表現の可能性を見せた一作だと思う。演出は、原作を大切にしつつ、漫画を知らない人も漫画のファンになってしまうような愛情と気遣いに溢れていた。演出・俳優・舞台効果・・・総じてひとつの世界を作り上げ、観客に喜んでもらおうと結集している、まさにエンターテイメントと言える作品だった。

●男優賞
内野聖陽『禁断の裸体』(4月・Bunkamuraシアターコクーン)

厳格な人格者が愛と性に堕落していく様を演じた内野。妻を亡くした男の悲しみ、娼婦に溺れる怠惰、プライドにすがりつく滑稽さを、遠慮なく全身で振り切る姿は、大きな舞台を引っ張るにふさわしかった。この作品で彼が強い存在感を示すことができたのは、相手役が文学座の同期でもある寺島しのぶだったということも大きいだろう。だが、20代の男性俳優の活躍が目覚ましかった2015年において、そんな若手の前をゆく力強さを見せたという点で、内野は特に印象深かった。

●女優賞
蒼井優『スポケーンの左手』(11月・シアタートラム)

たった4人の舞台で、誰も脇役ではないほど役者の強烈な存在感がぶつかり合う。そんな作品において唯一の女性である蒼井は、“女性”の持つ要素を一手に引き受けていた。可愛らしさ、かしましさ、あざとさ、セクシーさ、したたかさ、ヒステリック、いざという時の気の強さ・・・それらすべてを、多面的に違う表情で見せる。別人なのかと思うくらい豊かな表情。少々叫びすぎな印象も受けたが、シアタートラムの大きくはない空間で、彼女の存在だけが、暗く重い舞台に鮮やかな色を散りばめていた。他3人の男性キャストを受け止めた女優としても、その存在は大きく光った。

●演出家賞
三浦大輔『禁断の裸体』(4月・Bunkamuraシアターコクーン)

これまでは中劇場の規模で、人々の生活をのぞき見するような舞台を演出してきた三浦。しかしシアターコクーン初演出となるこの作品で、700人の大舞台で観客を圧倒させることもできるとを見せつけた。
しかも元の戯曲を書いたのは、『百年の孤独』などで有名なブラジルの劇作家ネルソン・ロドリゲス。カトリックの宗教観が非常に強いストーリーのため、共感する人は選ぶかもしれない。しかしそんな地球の裏側の異文化を、強い熱量で日本の舞台に再現することができたのは、三浦の演出力だろう。蜷川幸雄、野田秀樹、栗山民也などの大御所の後を追える演出家がここにいたと証明する舞台だったと思う。次世代の演劇界の可能性を見たという意味でも、三浦を演出家賞に選んだ。

2016年はこのストレートプレイが見逃せない!

最後に、まだ詳細が発表されていないものも多いが、2016年に注目の舞台をいくつかご紹介したい。
まず、新年明けて間もなく上演される『書く女』(1月・世田谷パブリックシアター)。二兎社の永井愛演出、黒木華主演で、樋口一葉の半生を描く。今作は、安定したクオリティの舞台を作り続ける永井演出による再演で、2006年の初演では数々の賞を受賞した。女性ならば共感できるだろう、一人の女の自立物語だ。

そして大注目なのが、『蜷の綿 –Nina's Cotton–』(2月・彩の国さいたま芸術劇場)。蜷川幸雄を題材とした舞台を、岸田戯曲賞作家・藤田貴大(マームとジプシー)が書き下ろす。それだけでなく、演出は“蜷川版”と“藤田版”の2作を同時上演。個性の強い演出家同士、それぞれどんな作品が出来上がるのかはわからない。もしかしたら、個性がぶつかりすぎて作品としては面白くない可能性だってある。けれど、世界のニナガワと、蜷川が認めている若手演出家・藤田。この企画そのものが、演劇への挑戦だと感じられる。おそらく演出界のキーポイントとなるであろうこの作品で、彼らが生み出すコラボレーションが楽しみだ。

小劇場でおすすめなのは、トラッシュマスターズ『猥り現(みだりうつつ)』(2月・赤坂レッドシアター)。作・演出の中津留章仁は、紀伊國屋演劇賞・読売演劇大賞などを受賞しており、重厚な社会派ストレートプレイを得意とする。2015年も『そぞろの民』(9月・下北沢 駅前劇場)で衆議院の安全保障関連法案採択について、手を抜くことなく突き詰めた。毎回、話題がシリアスなだけでなく、上演時間が3時間近くあるので観る方も大変だが、演じる役者の熱量には小劇場好きならたまらない充足感が感じられるだろう。

ほか、東京以外で注目なのが福岡の若手劇団ブルーエゴナクだ。20代の若手演劇家たちが、新しい表現を提示し続けている。まだ荒削りで不安定だが、“新しさ”を秘めている。「これからの演劇界にどんな才能が現れるのか!?」と刺激を探す観客には、ぜひ東京進出前から観ていただきたい劇団だ。2月に福岡で短編の野外劇を、5月には本公演を予定している。

2016年はおそらく、ストレートプレイ・ダンス・映像の境がさらに曖昧になっていくだろう。公演によっては「これって演劇!?」と驚くような表現も登場するかもしれない。つまり見方を変えれば、観る人それぞれが自分の好みに突き刺さる作品を探すことができる。表現が網の目のように多様に広がり続けているからこそ、アンテナを高く張り、観終わった後に大興奮できる自分のための作品を見つけてほしい。

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