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稀代の野外劇集団「維新派」ガイド〈前編〉~「ビルドアンドスクラップ」の美学

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維新派『台湾の灰色の牛が背のびをしたとき』

『台湾の灰色の牛が背のびをしたとき』(2010年)

瀬戸内の孤島に約4,000本の丸太を使った劇場を打ち立てたと思えば、池袋のビルの屋上でミニマムなパフォーマンスを展開。琵琶湖岸に東欧の街を出現させたかと思えば、大阪の都心部に幻の川を浮かび上がらせる…。大阪を拠点に、45年にも渡って大規模な野外劇を上演し続けている劇団「維新派」。彼らの公演が決まると「維新派、いつ行く?」という会話があちこちで交わされるほど、全国規模で注目を集める存在なのだ。そして今年2015年は、9月19日(土)~27日(日)に奈良県山間部にある小さな村「曽爾村」で、新作『トワイライト』を上演することが決定。その公演を前に、いったい維新派とはどういう劇団か? ということを二回に渡って紹介しよう。

維新派『MAREBITO』

『MAREBITO』(2013年)

■芝居のスタイルは変えつつも、野外にこだわり続けた45年間

維新派は、ほぼ全作品で作・演出を務めている松本雄吉を中心に、1970年に結成(当時の劇団名は「日本維新派」)。松本が演劇ではなく美術畑の人間ということもあり、物語性よりも人間の身体そのものの造形美や、潜在的な力を提示するようなアートパフォーマンスを、周辺の風景を巻き込みながら見せるという野外劇を行っていた。特に80年代前半までは、ほぼ全裸の男たちが一升瓶の水を飲んでは嘔吐をするとか、観客の目の前で排泄行為を見せた上にそれを食べてしまうとか、都市伝説かと思うような過激な舞台を見せていたそうだ。しかし80年代半ば頃から、入口が迷路状だったり、壁面が障子でできているなど、都心の真ん中に創意工夫を凝らした野外劇場を打ち立てるというやり方に。そして90年代に入ると、現代音楽家の内橋和久の音楽をフューチャーした、一般的に「ヂャンヂャン☆オペラ」と呼ばれる現在の演技スタイルが完成する。その後は時に演劇的になったり、時にダンス性を高めたりなどのマイナーチェンジを繰り返しているが、やはり結成以来一貫して変わらないのは「風景と身体の関係を見せる」というコンセプト。その魅力について松本は「現実の風景には、歴史もあるし地形もある。ある程度そこにネタが埋まっているというのが、やる側にはありがたいんです。逆に劇場のような何もない空間から、何か作れと言われる方が苦労しますよ」と語っている。21世紀に入ってからは、オーストラリアやシンガポールでも野外劇を上演。自力で劇場を打ち立ててはすべてを壊して去っていくという、スクラップアンドビルドならぬ「ビルドアンドスクラップ」の美学は、今や世界レベルで大きな衝撃を与えている。

維新派『透視図』

『透視図』(2014年)

■独特の演技スタイルと、現実の風景の掛け算が生むスペクタクル

前章で出てきた「ヂャンヂャン☆オペラ」というスタイル、維新派のサイトでは「喋らない台詞、歌わない音楽、踊らない踊り」という、背反する言葉で説明されている。まず維新派の舞台では、作品にもよるけど会話というものがほとんどない。たとえば街の風景を説明するのでも「ビル、電柱、路地、マンホール…」などと単語を連ねていき、そこから観客がそれぞれの街の風景を想起するというやり方になっている。これらの台詞は音楽に合わせて語られるが、その楽曲もメロディアスなものではなく、ラップのように変拍子のリズムに乗せたもの。ミュージカルや音楽劇と違い、音楽がシーンを盛り上げるというより、物語性に頼ることなくシーンを運ぶための装置という役割が強い。そして動きの方も、ただ走るだけとか上下運動を繰り返すとか、日常的かつ機械的なムーブメントで構成されている。しかしこの動き、たとえば上半身は三拍子で下半身は四拍子で動くとか、見た目に美しいランニングフォームを身に付けるとか、実はかなり鍛錬した肉体でないとできない“踊り”なのだ。だから一見、ずっと同じような動きで、ずっと同じ調子のリズムで、ずっと同じような言葉を淡々と発しているだけに思えるが、気がついたら何十分も飽きずに観ていられる…という舞台となっている。さらにここに、野外劇ならではのダイナミックな風景と大規模な美術が加わったら…相当にスペクタクルな世界になることが、きっと想像できるだろう。

維新派『透視図』

維新派が多少交通の便が悪い場所で公演を打っても、全国から何千人もの観客が集まってくるのには、文字通り「維新派の野外劇でないと観られない風景」を、間違いなく体感することができるから…という他ならないだろう。

≪維新派『透視図』オフィシャル動画はこちらから!≫

参考文献:『維新派大全』(松本工房)
http://www.amazon.co.jp/dp/4944055331

撮影:井上嘉和

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