『レ・ミゼラブル』が演劇界に贈ったギフト


11月17日(月)、2015年に帝国劇場で幕を開けるミュージカル『レ・ミゼラブル』の製作発表が行われ、総勢73名のキャストが報道陣と抽選で選ばれたオーディエンスの前に姿を見せた。

初演から27年。“最も人々に愛されているミュージカル”と言っても過言ではない本作が、
日本の演劇界に与えた大きな影響について考えてみたいと思う。

『レ・ミゼラブル』

ここまでの国内外『レ・ミゼラブル』関連情報をおさらいしてみましょう!

全てのキャストをオーディションで選出

『レ・ミゼラブル』日本での初演は1987年6月。ウエストエンド、ブロードウェイに続いて3都市目の公演で、非英語圏としては東京での上演が初となる。“全てが歌で進んで行き、台詞はないらしい” “ビクトル・ユゴーの原作をかなり短くまとめているらしい”と事前にさまざまな情報が飛び交い、街には憂いを含んだ少女の表情が印象的なポスターが貼られ、人々は初めて観る『レ・ミゼラブル』の上演を心待ちにしていた。

『レ・ミゼラブル』日本初演の際、何より観客たちの度肝を抜いたのは「オールキャストオーディションで出演者を選出する」という全く新しい試みだった。今でこそ舞台製作の過程でオーディションを行うことは珍しくなくなったが、商業的な舞台ではテレビや映画で名前が売れた俳優を主役に置き、その周囲を舞台で活動する俳優が固めるという座組みが一般的だった当時に、一般公募をかけ、有名俳優と一般人が同じ条件、同じフィールドでオーディションを受けて、合格者が決まるというのは非常に画期的なことだったのだ。

初演は鹿賀丈史と滝田栄が交互にジャン・バルジャンとジャベールを演じ、マリウスには野口五郎、コゼットには斉藤由貴、ファンテーヌには岩崎宏美とメジャーな名前も見られたものの、キャスト表にはこの作品で一気にミュージカルスターへの階段を駆け昇ったエポニーヌ役の島田歌穂や小劇場で活動していたテナルディエ役の斉藤晴彦、後に多くのミュージカルで活躍することになる阿知波悟美、伊東弘美、鈴木ほのか、安崎求、福井貴一ら世間的にはまだ無名の俳優たちの名前も多くあった。

この時から『レ・ミゼラブル』は“誰もが同じスタートラインで夢を追えるミュージカル”として演劇界の新しい扉を開いたのである。

『レ・ミゼラブル』
1987年の『レ・ミゼラブル』より

スターが“生まれる”ミュージカル

『レ・ミゼラブル』という作品の大きな特徴の1つに、バルジャンとジャベール役以外の俳優は、本役の出番がない場面でアンサンブルとして出演するという演出がある。例えば革命のリーダー・アンジョルラスを演じるキャストは囚人や群衆、宿屋の客、給仕、裁判長など複数の役を兼任。これはそれまでの大型ミュージカルにはなかったスタイルで、製作サイドの「プリンシバルもアンサンブルも1つになって作品を創る」という強い理念があってのことだろう。

『レ・ミゼラブル』
2013年の新演出版より

華やかできらびやかなスターのオーラは要らない。作品の中で役の人物として生き抜ける俳優こそが最も輝く…『レ・ミゼラブル』の1つの“肝”がここにある。つまり「スターが出演」するのではなく、「スターが生まれる」ミュージカル…それが『レ・ミゼラブル』なのである。

アンサンブルからプリンシバルへ

子役、もしくはアンサンブルとして出演していた俳優が、プリンシバルに昇格して作品に帰ってくる…そんな事例が多いのも『レ・ミゼラブル』ならではの現象だ。

例えば2015年のマリウス役、原田優一や2003年に同役を演じた山本耕史は以前ガブローシュを演じていたし、2015年、ジャベール役として参加する岸祐二は2003年から2006年までアンサンブル、2005年から2007年の公演ではアンジョルラスを演じている。鎌田誠樹と綿引さやかは2013年にアンサンブルと兼任でそれぞれジャベール役とエポニーヌ役に昇格。更に旧演出版でジャベールとバルジャンを長く演じた今井清隆も当初はアンサンブルでの出演だった。

とかくネームバリューが重視されがちな舞台のキャスティングで、例えその時点で無名であっても、役柄のキャラクターに合い、実力が伴っていれば大劇場のステージに立つことが出来る。『レ・ミゼラブル』は俳優を目指す多くの若者に1つの指針と夢を与えた。この作品が現在のミュージカル界の層の厚さを形成するのに大いに貢献したことは間違いないだろう。

『レ・ミゼラブル』
2006年の公演より

元・マリウスで元・ガブローシュな山本耕史は、『メンフィス』で主役を務めます!

圧倒的な群像劇

最後になったが、『レ・ミゼラブル』に観客が胸を熱くする大きな要因に“アンサンブルの力”があることも忘れてはならない。アンサンブルとして出演する俳優たちは劇中で多くの役を演じるが、その一役一役の性格や、それまで生きてきた人生、家族構成や趣味など役の人物のバックボーンをとことん考え、演じ切る。これは旧版の演出家、ジョン・ケアードが徹底して指導してきたことで、その精神は新版の演出にもきっちり受け継がれている。

『レ・ミゼラブル』
2013年の新演出版より

2015年の『レ・ミゼラブル』アンサンブルも実力者ぞろいだ。同じシェーンベルク作曲の『ミス・サイゴン』でクリスを演じた上野哲也、トゥイ役の神田恭兵、ジジの池谷祐子、エレン役の三森千愛に加え、『アナと雪の女王』吹替え版でクリストフの声を担当した原慎一郎、多くの舞台でキャリアを積んできた田村雄一、北村がく、照井裕隆、石飛幸司ら力のあるメンバーが名を連ねる。

11月17日(月)の製作発表のラストで『民衆の歌』が全ての出演者によって歌われた際、ステージの前面に立ったのはプリンシバルではなく、アンサンブルキャストたちだった。ここに“レミゼ・スピリット”を感じたのは私だけではないはずだ。

『レ・ミゼラブル』

日本初演から28年。日本の演劇界のさまざまな扉を開いてきた『レ・ミゼラブル』が、2015年の公演でどんな“伝説”を生み出すのか。そして誰が新しいスターとして羽ばたいていくのか。その瞬間を見逃さないようにしたいと思う。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』

2015年4月17日(金)~6月1日(月) 東京・帝国劇場
(プレビュー公演は4月13日~4月16日)

東京千秋楽後は名古屋、福岡、大阪、富山、静岡にて上演

写真提供:東宝演劇部

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